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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)257号 判決

控訴人 宿谷喬徳

被控訴人 杉山卓

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人・被控訴人間の別紙目録記載の土地に関する賃貸借契約の地代が昭和四五年四月一日から一ケ月七五〇〇円であることを確認する。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一・二審を通じてこれを五分し、その一を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を次のとおり変更する。控訴人・被控訴人間の別紙目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)に関する賃貸借契約の地代が昭和四五年四月一日以降月額金一〇、〇〇〇円であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。(ただし、原判決三枚目表四行目に「同3項の事実は争う」とあるのは、第二回口頭弁論調書によれば、「同3項の事実を認める。」の誤記であると認める。)

なお、控訴人は、改定地代の算定法について、次のとおり意見を述べた。

本件土地の近隣の地代は、高低まちまちであるので、改定地代は、当事者の合意による地代に地価の上昇率を乗ずるスライド方式により算定するのが公平妥当である。

理由

一、控訴人が昭和二六年四月被控訴人に本件土地を賃貸し、昭和四〇年に地代が月額一五〇〇円(坪当り三〇円)に改められたこと、控訴人が昭和四五年三月に同年四月一日からの地代を月額一〇、〇〇〇円(坪当り二〇〇円)に増額する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがなく、地代改定時の昭和四〇年から増額請求権を行使した昭和四五年三月までの間に公租公課が増額されたこと及び地価が高騰したこと並びに右改定地代が不相当に低額になつたことは、被控訴人も認めるところである。被控訴人は、本件土地がもと原町田六丁目一一一三番のイ号の一筆であつたところ、昭和三〇年頃公道に面する同所一一一二番の土地に合筆されたため、本件土地の課税評価額が高額に評価されることになったのであるから、課税評価額の増嵩は、地代増額の要因にならないと主張するが、合筆による課税評価額の増嵩そのものは地代増額の要因にならないとしても、合筆後の本件土地の地価の上昇に伴い、増嵩前の課税評価額の部分もこれにともない増額されることになるのであるから、合筆の有無にかかわらず、合筆後の課税評価額の増額は、地代増額の要因になる。地価上昇等の客観的事情の変更により、昭和四〇年当時の地代を維持することが不相当となつたのであるから、右増額請求権の行使は、相当というべきである。

二、そこで、つぎに、昭和四五年四月一日現在における本件土地の相当地代について検討する。

原審鑑定人酒井秀夫、同阿久津節男は、ともに、本件土地近隣の地代が高低さまざまであることをあげ、相当地代を求めるのに、酒井鑑定人は、(底地価格×利回り+公租公課)の方式により、阿久津鑑定人は、(底地価格×利回り)の方式によつている。酒井鑑定人は、継続地代の底地価格に対する利回りは、東京都内においては一%前後ないし三%であることを参考として、〇・五%の利回りを採用しているが、何故にこのような低い利回りを採用したかについてはなんら説明をしないばかりか、右の方式を用いる場合に公租公課を加算するのは誤りである。継続地代の底地価格にする利回りが一%ないし三%という場合の利回りは、公租・公課を含む実際支払賃料の底地価格に対する比率のことであり(利回りという言葉を使うのは適切でない。)、積算賃料における純賃料を求める場合の期待利回りとは異るからである。阿久津鑑定人は、近隣の地代が高低さまざまであるところから、東京都内一般の利回りを採用することなく、控訴人の他の貸地(本件土地と筆を同じくする一一一二番の一部で南西側商店街に面する土地、以下「甲地」という。)の底地価格と地代から割り出された比率を採用しており本件のような場合、この方が説得力があるので、この考え方に従う。

本件土地の底地価格については、両鑑定人とも更地価格の三割を相当とするとしているので、底地価格の求め方についてはこれによる。底地価格を求める前提となる更地価格について両鑑定人の評価が異るので、双方の評価を比較検討するに、両鑑定人とも、本件土地の更地価格を求めるにあたり、先ず、甲地の昭和四五年四月一日現在における更地価格を求め、甲地と本件土地との関係から事情補正を行つて本件土地の更地価格を評価する手法を用いているのであるが、右価格時点における甲地の更地価格を、酒井鑑定人は、坪二二〇万円と評価し、阿久津鑑定人は、坪二〇〇万円と評価し、評価の基礎とした取引事例を次のようにあげている。

酒井鑑定人のあげた事例

表〈省略〉

阿久津鑑定人のあげた事例(対応する路線価は示していない)

表〈省略〉

酒井鑑定人は、取引事例Hの土地の昭和四五年の路線価を五五万円としているが、阿久津鑑定人提出の鑑定書添付の公図写及び昭和四五年度路線価図を対比すると、右Hの土地は五五万円の路線価の道路に面していないことが認められるので、酒井鑑定人が示した右土地の路線価は誤りであると思われる。甲地の昭和四五年度の路線価は、右路線価図によると、五五万円であり、酒井鑑定人のあげた事例のうち甲地と路線価を同じくするのはG一件のみであり、G地の昭和四五年一月の取引価格は坪二二〇万円であるので、酒井鑑定人が本件土地の同年四月一日現在における更地価格を坪二二〇万円と評価したことは首肯しうることであり、阿久津鑑定人の評価の根拠はさほど明らかでないので、本件土地の更地価格については、酒井鑑定人の評価に拠るのを相当とする。

両鑑定人の鑑定の結果及び前記公図写によれば、本件土地は、甲地の面する公道から東北方に通じる幅員約二・五米ないし約三米の袋状私道に南面し、公道より一〇米以上入つた地点にあることが認められ、両鑑定人ともこのことを考慮し、本件土地の甲地に対する奥行逓減による減価率を、酒井鑑定人は、四〇%とし、阿久津鑑定人は、五〇%とし、なお、阿久津鑑定人は、右私道が四米未満のため、将来本件土地上の建物を改築する際建築基準法上では敷地面積が多少縮小して計算されることになることを考慮し、この減価率を一〇%とする。阿久津鑑定人が奥行逓減による減価率を五〇%としたのは、通常の場合と比較すると過大のようにも思われるが、前記路線価図によれば、甲地の面する公道の昭和四五年度の路線価は五五万円、同年度の右私道の路線価は一八万円であり、同鑑定人は、このことをも考慮して減価率を五〇%としたのであるから、奥行逓減による減価率については、同鑑定人の意見に従うのを相当とする。しかし、同鑑定人が私道の幅員を考慮し、この減価率を一〇%としたことは納得できない。なるほど、土地の売買価額は、私道の幅員により影響を受けるのであろうが、地代は、その源泉を利潤(土地を資本に転化することにより得られる利潤)に求めるべきであり、現実に使用する土地の面積が大きいほど右利潤も大であるべきであるので、地代算定の上で本件土地の更地価格を評価する場合には、現実の敷地面積によるべく、私道の幅員による建築基準法上の敷地面積によるべきでないので減価をしないのが相当である。右によると、本件土地の底地価格は、次の計算により、坪三三万円となる。

220万円×(1-0.5)×0.3 = 33万円

阿久津鑑定人の鑑定の結果によると、甲地の昭和四五年四月一日現在の地代が一ケ月坪当り三〇〇円であることが認められるので、右地代の甲地の底地価格六六万円(220万円×0.3)に対する比率は〇・五四五%(300円×12÷66万円)となり、この比率を本件土地の実際支払賃料を求める場合の底地価格に対する比率に適用することになる。従つて、増額請求による本件土地の昭和四五年四月一日現在の改定地代は、次の計算により、一ケ月七五〇〇円(坪当り一五〇円)を相当とする。

220万円×(1-0.5)×0.3×0.545%÷12 = 149円875 ≒ 150円

なお、参考のために附け加えると固定資産税及び都市計画税の税率は、土地により差異はないので、右地代の中に含まれる税金分は、甲地の地代の中に含まれる税金分よりも低額で、本件土地の地価に相応するものである。現実に賦課される税額は地価に不相応なものであるが、控訴人がこれを避けるためには、本件土地を分筆すればよいことである。

控訴人は、旧地代に地価上昇率を乗じるスライド方式によつて地代を算出するのが相当であると主張するが、地代の源泉は前記のような利潤にあり、更地価格ないし底地価格は地代の源泉ではないので、右の見解を容れることはできない。

三、よつて、控訴人の本訴請求は右認定の限度において相当であるので、これと異なる原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用のうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

別紙 目録〈省略〉

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